表紙 前文 琉球国紀:原文 琉球国紀:現代語訳 15世紀の琉球語
海東諸国紀 15世紀の琉球語
私が「海東諸国紀」の15世紀の琉球語に興味を持ったきっかけは、「おもろさうしの朗読」のヒントになることが見つかるのではないかと思ったからである。結論を言うと、大きな発見が多かった。以下がそれである。
@この時代に、すでに、母音が五個から三個に移行しつつあった。(「o」が「u」に、「e」が「i」に変化)。おもろさうしの編集はこの琉球語の聴き取りからわずか30年後のことである。つまり、おもろさうしの時代も母音が五個から三個に移行する時代だったのである。五個と三個が並存・共存していたのである。どちらも正しいという意識があったと考えてよいのである。おもろさうしの朗誦者が、母音が三個で発声しているにもかかわらず、それを書き取る筆者は、それが本来正しいと思われる五個の母音に書き直したようである。それでは、おもろさうしを現代のわれわれが朗読するにはどうすればよいのか。もちろん、原文のまま読んで差し支えないわけである。また、母音をすべて三個に統一して朗読してもいいわけである。伊波普猷が当時のおもろさうしの朗誦者から実際に聞き取ったのは、母音がすべて三個であったらしい。伊波普猷は母音が五個なのではと期待していたようである。私は母音を三個に統一して朗読したほうが現代の沖縄人の心に共感するのではないかと思う。なぜなら、500年の伝統があるからだ。また、すべてを統一して読むのではなく、いろいろな読み方を並存・共存させて読むことにした。
Aこの時代にはまだ「き」の音がほとんど「ち」に変化していないが、そのきざしが見える。「来(き)」が「来(ち)」になっている。おもろ時代は、「き」と「ち」が並存・共存していたと考えてよい。
B二重母音が存在した。現在の琉球語には二重母音はみられない。(二重母音は長母音に変化した。)
Cこの時代のハ行の発音はどうであったか。「ふぁ・ふぃ・ふ・ふぇ・ふぉ」であったのか、それとも「ぱ・ぴ・ぷ・ぺ・ぽ」であったのか。結論を言うと、この資料からは判断出来ない。ハングルには、「ふぁ・ふぃ・ふ・ふぇ・ふぉ」を表記する文字がないのである。(韓国語に「ふぁ・ふぃ・ふ・ふぇ・ふぉ」の発音が存在しないということである。)それでは、ファ行を聞き取った場合にどう表記するのか。「ぱ・ぴ・ぷ・ぺ・ぽ」と表記するのである。したがって、ハングルから当時のハ行の発音がどうであったのかの判断は出来ないのである。私の考えを述べれば、この時代は、ファ行とパ行が並存・共存していたはずである。ファ行はパ行よりも唇を使わなくてすみ、労力が節減できる。音声は労力の少ない方にだんだんと変化するのが言語学上の自然な法則である。ある日突然、みんながパ行をファ行で話し始めたということはありえない。ファ行で話す人が何人かあらわれ、それがだんだんと数を増やしていったと考えるのが自然である。ファ行で話す人が何パーセント以上であれば、並存・共存といえるのかという定義の問題だけなのである。十五世紀の琉球語では、ハングルどおりに、すべて「ぱ・ぴ・ぷ・ぺ・ぽ」と表記した。なお付け加えると、現代の琉球語は、「ふぁ・ふぃ・ふ・ふぇ・ふぉ」と「は・ひ・ふ・へ・ほ」が並存・共存している。私は現代琉球語に訳す場合、ファ行は、「は・ふぃ・ふ・ふぇ・ほ」を使用した。
D500年以上も前の琉球語であるにもかかわらず、現在の琉球語とほとんど変わっていない感じがする。あるいはほとんど変わっていない語が多く存在するということ。以上。
この琉球語の聞き取りは、おそらく、宴会の席でおこなわれたものが多数のようである。中国人の通訳が間に入ったのか、あるいは、中国語で聴き取りが行われたのか、琉球人にうまく伝わっていないところがかなり目立つ。たいへん気になったのは、ナ行の発音とラ行の発音の聞き取りがうまくないということである。(混同が非常に多い)。勝手な憶測をすれば、当時はハングルができて間がなく、その運用能力に問題があった可能性もある。(誤写と思われるところもかなりある。)
私がこの資料を読み解くことが出来たのは次の三つの偶然が重なったからである。
@私はハングルの読み書きができる。(韓国語を理解することはできない。)
A私は中国語の白話文(会話文)をおおよそ理解することができる。[普通話(中国語)を勉強したことがある。漢文は白文で読める。]
B私は琉球語を読み、書き、聞き、話すことができる。(おもろさうしと混効験集を翻訳し、琉球語の辞典を作成した。)
十五世紀の琉球語
:中国語の白話文(会話文)
:日本語訳:當眞(岩波文庫本を参考にした)
:琉球語(ハングルから直接転写:當眞)(漢字かな交じり表記:當眞)
※補足説明・現代琉球語訳(首里言葉ではなく標準的な琉球語):當眞
1:你是那裏的人
:あなたはどこの人ですか。
:汝(うら)何処(じゅま)人(ぴちゅ)。
※混効験集:坤巻・言語に「ずま」とあり、何処という意味である。現代琉球語の「人(っちゅ」は、人(ぴちゅ)の「ぴ」が消失した形と思われる。汝(うら)は、現代琉球語では、汝(ぃやあ)、または、御胴(うんじゅ)である。現代琉球語では、御胴(うんじょ)お何処(まあ)ぬ人(っちゅ)有(や)い侍(びい)が。
2:我是日本国的人
:私は日本人です。
:吾(ぅわん)大和人(やまとぴちゅ)。
※琉球人とか沖縄人という意識はなかったようである。あるいは外国人に対してだから、日本人(やまとぴちゅ)と言ったのかもしれない。「やまとぅ」ではなく、「やまと」と発音している。現代琉球語では、吾(わね)え大和(やまとぅ)ん人(ちゅ)有(や)い侍(びい)ん。
3:你的姓甚麼
:あなたの姓は何ですか。
:汝(うら)名(な)わ如何(いきゃ)言(い)うが。
※如何(いきゃ)は、現代琉球語では、如何(ちゃあ)、と言う。現代琉球語では、御胴(うんじゅ)ぬ名(なあ)や何(ぬう)有(や)い侍(びい)が。
4:你的父親有麼
:あなたは父親がいますか。
:汝(うら)父(あしゃ)有(あ)り。
※おもろさうし・1098に、「あさ」とあり、「父」とか「親」の意味である。現代琉球語では、御胴(うんじょ)お親(うや)あ参候侍(めんせえびい)み。
5:你哥哥有麼
:あなたはお兄さんがいますか。
:汝(うら)兄(しんじゃ)有(あ)り。
※兄(しんじゃ)は、現代琉球語では、兄(しいじゃ)である。現代琉球語では、御胴(うんじょ)お兄(しいじゃ)あ参候侍(めんせびい)み。
6:你姐姐有麼
:あなたはお姉さんがいますか。
:汝(うら)姉(あない)有(あ)り。
※姉(あない)は、共通語の姉(あね)と同根のようである。現代琉球語では、姉小(あんぐぁあ)、という。現代琉球語では、御胴(うんじょ)お姉(ぅんみい)や参候侍(めんせえびい)み。
7:妹子有麼
:妹はいますか。
:妹(おなり)有(あ)り。
※古文の教科書を読むような感じである。妹(おなり)は、琉和辞典の、妹(うぅない)を参照。現代琉球語では、御胴(うんじょ)お妹(うぃなぐうっと)お参候侍(めんせえびい)み。
8:你幾時離了本国
:あなたはいつ本国を発ちましたか。
:汝(うら)何時(いとぅちゃ)本国(しま)発(た)ちぇが。
※何時(いとぅちゃ)は、現代琉球語では、何時(いち)、である。「しま」は自分の故郷をさす言葉である。現代琉球語では、御胴(うんじょ)お何時(いち)本国(しま)発(た)ちゃ侍(び)たが。
9:我旧年正月起身
:私は昨年の正月に発(た)ちました。
:吾(ぅわん)去年(くじゅ)正月(しょおんぐぁちゃ)発(た)っちぇ。
※去年は、現代琉球語でも、去年(くじゅ)である。共通語の古語では、去年(こぞ)という。現代琉球語では、吾(わね)え去年(くじゅ)ぬ正月(そおぐぁち)発(た)ちゃ侍(び)たん。
10:你幾時到這裏
:あなたはいつここに来たのですか。
:汝(うら)何時(いとぅちゃ)此処(こま)来(ち)んか。
※此処(こま)は、現代琉球語では、此処(くま)である。母音の「o」が存在した証拠である。「来(き)」が「来(ち)」となっている。現代琉球語では、御胴(うんじょ)お何時(いち)此処(くま)んかい来(ちゃ)あ侍(び)たが。
11:我門今年正月初三日纔這裏 (「門」は人偏であり、複数を表す接尾辞。)
:私は今年正月一日に来ました。
:吾(ぅわん)今年(くとぅし)正月(しゃおんぐぁちゅ)一日(ちぅいたち)来(き)
っちぇ。
※今年は、現代琉球語でも、今年(くとぅし)である。一日は、一日(ちいたち)、と言う。
現代琉球語では、吾(わね)え今年(くとぅし)ぬ正月(そおぐぁち)一日(ちいたち)に来(ちゃ)あ侍(び)たん。
12:你初到江口是好麼
あなたは港に来たのですか。
汝(うら)船本(ぷなもと)来(ち)んか。
※船本(ぷなもと)は、船の本となるところ、つまり、港である。現代琉球語では、御胴(うんじょ)お港(んなとぅ)んかい来(ちゃ)あ侍(び)てぃい。
13:一路上喫食如何
:途中の食事はいかがでしたか。
:汝(うら)道々(みちみち)上物(あぐぃもの)成(な)っと。
※現代琉球語では、御胴(うんじょ)お船(ふに)居(うぅ)てえ御飯(むの)お押上(うさ)がい侍(び)てぃい。
14:多酒
:多い(酒)。
:多(おぷ)し。
※たくさんの酒と言うのであるが、「酒」を訳さなかったようである。多(おぷ)し、は現代琉球語では、多(うふ)さん、である。
15:好下飯
:いただきます。(召し上がってください。)
:御下(おさ)がらな。
※現代琉球語の「御下(うさ)がらな」のことである。伊波普猷は、「御肴の義か」としているが、このハングルを韓国人が続けて発音すると、必ず、「おさがらな」となるはずである。ハングルには、濁音を表わす「〃」のような便利な記号がない。しかし、規則に従えばそれほど不便ではない。韓国語は、語頭に濁音が来ることは絶対にない。子音の後は清音で、母音の後は濁音である。などの規則にしたがって読めば大丈夫なのである。日本語でも濁点が使われたのは明治以後で、それ以前は濁点なしで十分に読めたのである。
16:無甚麼好下飯
:何もありませんが召し上がってください。
:肴(さかな)ん有(あ)りゃ侍(び)らんどぅも。
※これまでの見てきたところ、当時は敬語(敬体)というものが存在しなかったと思っていたが、やはり敬語は存在したようである。現代琉球語では、肴(さかな)ん有(あ)い侍(び)らんしが。
17:請一鍾酒
:一杯いかがですか。
:酒(さくぃ)一(ぷて)ちゅ上(あ)ぐぃら。
※一(ぷて)ちゅ、は現代琉球語は、一(てぃい)ち、である。現代琉球語では、酒(さき)一(てぃい)ち押上(うさ)ぎら。
18:湯酒
:熱燗(あつかん)。
:酒(さくぃ)沸(わ)かし。
※現代琉球語では、熱酒(あちざき)、であろうが、泡盛の熱燗は聞いたことがない。
19:酒酒来
:酒をどんどん持って来てください。
:酒(さくぃ)沸(わ)かてぃ来(く)。
※「来い」は、現代琉球語では、「来(く)う」である。共通語の古語では、「来(こ)」である。現代琉球語では、酒(さき)沸(わ)かち来(くう)。
20:撒酒風
:酒臭さをまき散らす。
:酒狂(さくぃぐり)い。
※酒狂(さきぐり)い、は現代琉球語としても通用する。
21:不要饋他喫
:あの人に飲ませないでください。
:彼(あ)り飲(の)ますな。
※現代琉球語では、彼(あ)りねえ飲(ぬ)ますな。
22:小饋他喫
:少し飲ませてください。
:少(いぇけぇ)なく飲(の)ませ。
※少(いぇけぇ)なく、現代琉球語では、少(いぃき)なく、である。現代琉球語では、少(いぃき)なく飲(ぬ)ませえ。
23:酒尽了
:酒がなくなりました。
:酒(さくぃ)空(みな)成(な)ってぃ。
※伊波普猷は、「皆になった」としているが、意味不明である。「みな」には、「皆」のほかに、「空(みな)」という語があり、「何もない」という意味である。現代琉球語では、「空(んな)」と言う。現代琉球語では、酒(さき)ぬ空(んな)成(な)てぃ。
24:請裏頭要子
:お家に行って遊びなさい。
:内庭(うちばら)行(うぃ)ちょ遊(あすん)び。
※現代琉球語では、家(やあ)んかい行(い)じ遊(あし)べえ。
25:平坐
:お楽にしてください。
:好(ますん)こ座(ゆうぃ)り。
※好(ますん)こ、現代琉球語の、「好(ま)しく」のことではないか。「好きなように」という意味だと思う。現代琉球語では、好(ま)しな如(ぐとぅ)居(いぃ)れえ。
26:面紅
:顔が赤い。
:面(ちゅら)ぬ赤(あけ)さ。
※面(ちゅら)、現代琉球語では、面(ちら)、である。「赤(あけ)さ」は、赤(あか)さん、である。現代琉球語では、面(ちら)ぬ赤(あか)さん。
27:面白
:顔が白い。
:面(ちゅら)ぬ白(しる)さ。
※現代琉球語では、面(ちら)ぬ白(しる)さん。
28:這箇斗甚麼子
:これは誰ですか。
:此(く)りや何(ぬう)っか。
※現代琉球語では、此(く)れえ誰(たあ)やが。
29:這箇人心腸好
:この人は心が好い。
:此(こ)の人(ぴちょ)肝(きも)の良(よ)たしゃ。
※28では、此(く)で、29では、此(こ)である。「o」と「u」が混用・混在している。「o」が、だんだんと、「u」に変わっていく過渡期のようである。2では、「人(ぴちゅ)」であったのがここでは、「人(ぴちょ)」である。肝(きも)は、現代琉球語では、肝(ちむ)である。「き」の音がまだ「ち」には変化していない。現代琉球語では、此(く)ぬ人(っちょ)お肝(ちむ)ぬ良(ゆ)たさん。
30:這箇人心腸歹
:この人は心が悪い。
:此(こ)の人(ぴちょ)肝(きも)の弱(よわら)さ。
※現代琉球語では、此(く)ぬ人(っちょ)お肝(ちむ)ぬ悪(わっ)さん。
31:天
:空。
:天(とょん)。
※天は、現代琉球語では、天(てぃん)である。
32:天陰了
:空が曇った。
:天(とょん)曇(くも)て。
※現代琉球語では、天(てぃん)ぬ曇(くむ)てぃ。
33:天晴了
:空が晴れた。
:天(とょん)晴(ぱ)りて。
※現代琉球語では、天(てぃん)ぬ晴(は)りてぃ。
34:下雨
:雨が降る。
:雨(あみ)降(ぷ)って。
※雨(あめ)が雨(あみ)となっている。「e」が「i」に移行しつつある。現代琉球語では、雨(あみ)ぬ降(ふ)てぃ。
35:雨晴了
:雨が晴れる。
:雨(あみ)晴(ぱ)りって。
※現代琉球語では、雨(あみ)ぬ晴(は)りてぃ。
36:下雪
:雪が降る。
:雪(ゆき)降(ぷ)り。
※沖縄には雪が降らない。雪(ゆき)は、「あられ」のことである。現代琉球語では、雪(ゆち)ぬ降(ふ)てぃ。
37:雪往了
:雪が晴れる。
:雪(ゆき)晴(ぱ)りって。
※現代琉球語では、雪(ゆち)ぬ晴(は)りてぃ。
38:日頭
:太陽。
:太陽(とょんだ)。
※現代琉球語では、太陽(てぃいだ)である。この時代にはすでに存在した語のようであるが、語源はわからない。
39:日頭上了
:日が出た。
:太陽(とょんだ)上(あ)んがって。
※現代琉球語では、太陽(てぃいだ)ぬ上(あ)がてぃ。
40:日頭落了
:日が落ちた。
:太陽(とょんだ)休(よす)みょ入(い)っちぇ。
※実に詩的な表現である。現代琉球語では、太陽(てぃいだ)ぬ落(う)てぃてぃ。
41:風
:風。
:風(かんじ)。
※現代琉球語では、風(かじ)である。
42:天亮了
:夜が明けた。
:夜(いう)明(か)み。
※明(か)み、が意味不明である。もしかして聞き間違いか。夜は、現代琉球語では、夜(ゆる)である。現代琉球語では、夜(ゆる)ぬ明(あ)きてぃ。
43:清早
:早朝。
:早朝(すとみてぃ)。
※枕草子冒頭の「つとめて」でおなじみの語である。現代琉球語では、早朝(ふぃてぃみてぃ)・(ひてぃみてぃ)である。
44:晌午
:昼。
:昼間(ぴるま)。
※現代琉球語では、昼間(ふぃるま)である。
45:晩夕
:夕べ。
:夕方(よさんび)。
※現代琉球語では、夕去(ゆさんでぃ)である。
46:黒夜
:夜。
:夜(いうる)。
※現代琉球語では、夜(ゆる)である。
47:白日
:昼。
:昼(ぴる)。
※現代琉球語では、昼(ふぃる)である。
48:暖和
:暖かい。
:温(ぬく)さ。
※現代琉球語では、温(ぬく)さん、である。
49:天熱
:暑い。
:暑(あっ)さ。
※現代琉球語では、暑(あち)さん、である。
50:涼快
:涼しい。
:涼(すん)ださ。
※現代琉球語では、涼(しだ)さん、である。
51:向火
:火にあたれ。
:火(ぴ)温(ぬく)み。
※温(ぬく)み、は命令形のようである。現代琉球語では、火(ふぃい)んかい当(あ)たれえ。
52:春
:春。
:春(ぱる)。
※現代琉球語では、春(はる)である。
53:夏
:夏。
:夏(なっちゅ)。
※現代琉球語では、夏(なち)である。
54:秋
:秋。
:秋(あき)。
※現代琉球語では、秋(あち)である。
55:冬
:冬。
:冬(ぷゆ)。
※現代琉球語では、冬(ふゆ)である。
56:今日
:今日。
:今日(きょお)。
※現代琉球語では、今日(ちゅう)である。
57:昨日
:昨日。
:昨日(きにう)。
※現代琉球語では、昨日(ちぬう)である。
58:明日
:明日。
:明日(あちゃ)。
※現代琉球語では、明日(あちゃあ)である。
59:後日
:あさって。
:明後日(あさってぃ)。
※現代琉球語では、明後日(あさてぃ)である。
60:這月
:今月。
:此(こ)の月(ちゅき)。
※現代琉球語では、此(く)ん月(ちち)である。
61:来月
:来月。
:来月(れわんぐぁちゅ)
※現代琉球語では、相当する語がないようである。共通語の来月(らいげつ)を使うしかないが、しいて言えば、来(ちゅう)る月(ちち)。
62:開月
:明年。
:明年(みゃうにょん)。
※現代琉球語では、ぴったりの語がないようである。しいて言えば、明(あ)きる年(とぅし)。
63:拝年
:正月の拝。
:正月(しょおんぐぁちゃ)の拝(ぺ)。
※現代琉球語では、しいて訳せば、年(とぅし)ぬ拝(うぅが)み。
64:地
:地。
:地(ち)。
※現代琉球語では、地(じい)である。
65:地平正
:土地が平らである。
:地(ち)正(まさ)んこ。
※現代琉球語では、しいて訳せば、地(じい)ぬ真平(まってえ)ら為居(そお)ん。
66:山頂
:山の頂。
:山(さ)の頂(ちゃんじ)。
※現代琉球語では、山(やま)ぬ頂(ちじ)。
67:山底
:山の下。
:山(さ)の下(しちゃ)。
※現代琉球語では、山(やま)ぬ下(しちゃ)。
68:大路
:大通り。
:大道(おぷみち)。
※現代琉球語では、大道(うふみち)。
69:小路
:小道。
:小道(くみち)。
※現代琉球語では、小道(くうみち)、細道(ぐまみち)。普通に言えば、道小(みちぐぁあ)。
70:酒
:酒。
:酒(さくぃ)。
※現代琉球語では、酒(さき)。
71:白酒
:濁り酒。
:濁(にんぐ)な酒(さくぃ)。
※現代琉球語では、濁(にぐ)り酒(ざき)であるが実際に使う人がいるかどうか。
72:清酒
:清酒。
:良(よ)か酒(さくぃ)。
※鹿児島弁のような感じがする。沖縄にもともと清酒はない。
73:飲酒
:(酒を)飲め。
:飲(ぬ)み。
※「酒」を訳さなかったようである。現代琉球語でも、飲(ぬ)み、であるが、飲(ぬ)めえ、ともいう。
74:酒有
:酒が有る。
:酒(さくぃ)有(あ)り。
※現代琉球語では、酒(さき)ぬ有(あ)ん。
75:酒無了
:酒が無い。
:酒(さくぃ)無(ねえ)。
※現代琉球語では、酒(さき)ぬ無(ねえ)らん。
76:酒酔了
:酒に酔った。
:酒(さくぃ)酔(いう)てぃ。
※現代琉球語では、単に、酔(うぃい)てぃ、であろう。
77:飯
:御飯。
:御飯(おんぱに)。
※混効験集:乾巻・飲食に、「みおばに」とある。現代琉球語では、首里では、御盆(うぶん)、と言う。一般には、御飯(むぬ・むん)であろう。米を炊いたものをさす本来の琉球語はないようである。
78:喫飯
:(ご飯を)お上がり。
:上(あん)ぐぃり。
※混効験集:坤巻・言語に、「あけれ」とあり、「食なとくふを云」とある。現代琉球語では、上(あ)ぎり、上(あ)ぎれえ、丁寧に言えば、押上(うさ)ぎり、押(うさ)ぎれえ、であろう。
79:作飯
:御飯の用意をしろ。
:御飯(おぱに)為(す)れ。
※現代琉球語では、御飯(むぬ)作(ちゅく)れえ、であろうが、普通に言えば、御飯(むぬ)支度(しこお)れえ、であろう。
80:大米飯
:米の御飯。
:米(こめ)の御飯(おぱんに)。
※現代琉球語では、しいて訳せば、米(くみ)ぬ御盆(うぶん)、米(くみ)ぬ飯(めえ)。
81:小米飯
:粟の御飯。
:粟(あわ)の御飯(おぱんに)。
※現代琉球語では、しいて訳せば、粟(あわ)ぬ御盆(うぶん)、粟(あわ)ぬ飯(めえ)。
82:作下飯
:会食しよう。
:肴(さかな)寄(よ)らに。
※現代琉球語では、御飯(むぬ)寄合(ゆら)れえ、であろう。
83:精米
:精米。
:米(こみ)精(しらん)がてぃ。
※現代琉球語では、米(くみ)精(しら)ぎてぃ。
84:肉
:肉。
:肉(しし)。
※現代琉球語でも、肉(しし)。
85:魚
:魚。
:魚(いう)。
※現代琉球語では、魚(いゆ)。
86:鹿
:鹿。
:鹿(かう)ぬ肉(しし)。
※混効験集:乾巻・飲食に、「かうのあつため」とある。現代琉球語では、鹿(こお)ぬ肉(しし)であるが使うことはないであろう。ちなみに、鹿(か)は訓読みであり、音読みは、鹿(ろく)である。鹿(こお)は、鹿(か)が変化した形かもしれない。
87:猪肉
:豚肉。
:上肉(ぉわあしし)。
※現代琉球語では、豚肉(ぅわあしし)である。猪は、中国語で豚のことである。豚は猪が家畜化したものである。数ある肉(しし)の中で豚肉は最上のものだったのであろう。「ぅわあしし」の「しし」がなくなって、単に、「ぅわあ」となったようである。海東諸国紀によって、豚(ぅわあ)の語源があきらかになったようである。
88:兎肉
:兎の肉。
:兎肉(うさんぎしし)。
※現代琉球語では、兎肉(うさじしし)であるが、これも使われることはないであろう。
89:油
:油。
:油(あぶら)。
※現代琉球語では、油(あんだ)。
90:塩
:塩。
:真塩(ましお)。
※現代琉球語では、真塩(まあす)。
91:醤
:味噌。
:味噌(みしょ)。
※現代琉球語では、味噌(んす)であるが、味噌(みす)とも言うようである。
92:酢
:酢。
:酢(すう)。
※現代琉球語でも、酢(すう)であるが、首里では、酢(すぃい)と言うようである。
93:芥末
:芥子菜(からしな)の実の粉。
:菜(な)ん種(たに)辛子(がらし)。
※現代琉球語では、菜種辛子(なたにがらし)と言うしかない。
94:胡椒
:胡椒
:胡椒(こしゅう)。
※現代琉球語では、胡椒(くしゅう)と言うしかない。
95:川椒
:山椒。
:山椒(さんしお)。
※現代琉球語では、山椒(さんしゅう)と言うしかない。
96:生薑
:生姜(しょうが)。
:生姜(しゃおんが)。
※現代琉球語では、生姜(しょおがあ)である。
97:葱
:葱。
:黄色薤(きんびら)。
※混効験集:乾巻・飲食に、「きむびら」とある。現代琉球語では、黄色薤(ちりびらあ)。
98:蒜
:蒜。
:蒜(ぴる)。
※現代琉球語では、蒜(ふぃる)。にんにくのことである。
99:菜蔬
:酢の物。
:酢和(そね)。
※現代琉球語では、酢和(すねえ)。酢の和(あ)えが縮まった形であろう。
100:焼茶
:茶を沸かせ。
:茶(ちゃ)沸(わ)かし。
※現代琉球語では、茶(ちゃあ)沸(わ)かし、茶(ちゃあ)沸(わ)かせえ、である。
101:甜
:甘い。
:甘(あま)さ。
※現代琉球語では、甘(あま)さん。
102:苦
:苦い。
:苦(にが)さ。
※現代琉球語では、苦(んじゃ)さん。
103:酸
:すっぱい。
:酸(すい)しゃ。
※現代琉球語では、酸(しい)さん。
104:淡
:味が薄い。
:淡(あぱ)しゃ。
※現代琉球語では、淡(あふぁ)さん。この語はなぜか、淡(あは)さん、とは発音しづらいようである。
105:鹹
:塩からい。
:舌辛(しぱから)さ。
※現代琉球語では、鹹(しぷから)さん。
106:辣
:辛い
:辛(から)さ。
※現代琉球語では、辛(から)さん。
107:硯
:硯。
:硯(すちゅり)。
※現代琉球語では、硯(しじり)。
108:墨
:墨。
:墨(すみ)。
※現代琉球語では、墨(しみ)。
109:筆
:筆。
:筆(ぷんでぃ)。
※現代琉球語では、筆(ふでぃ)。
110:弓
:弓。
:弓(いうみ)。
※現代琉球語では、弓(ゆみ)。
111:箭
:矢。
:射矢(いや)。
※現代琉球語では、射矢(いや)。
112:弓袋
:弓袋(ゆみぶくろ)。
:弓(いうみ)ぬ巣(す)。
※現代琉球語では、弓(ゆみ)ぬ巣(しい)、と訳すしかない。
113:箭袋
:箙(えびら)。
:射矢(いや)ぬ巣(す)。
※現代琉球語では、射矢(いや)ぬ巣(しい)、と訳すしかない。
114:弓弦
:弓の弦(つる)。
:弓(いうみ)ぬ弦(ちょる)。
※現代琉球語では、弓(ゆみ)ぬ弦(ちる)、と訳すしかない。
115:窓
:窓。
:取(とお)り。
※(明かり)取り、と解釈した。ちなみに、windowは、wind(風)のeye(目)という意味らしい。与那国では窓を「とぅり」と言うらしい。遠く離れたところに昔の言葉が残っているようである。現代琉球語では、窓(まどぅ)と言うしかない。
116:門
:門。
:門(じょお)。
※現代琉球語でも、門(じょお)である。
117:掛帳
:蚊帳(かや)。
:傘(かしゃ)。
※これは「かちゃ」の誤写とも考えられる。ハングルでは小さな横棒を一本加えれば、「かしゃ」が「かちゃ」となるのである。昔は、地面まで垂れ下がった幕のある傘が存在した。それが蚊帳(かや)と同じに見えるのである。もしかすると傘(かしゃ)が蚊帳(かちゃ)に変化したのかもしれない。「かや」が「かちゃ」になるのはいかにも不自然であるが、「かしゃ」が「かちゃ」になるのはそれほど不自然ではない。もし私の推測が正しいならば、海東諸国紀が蚊帳(かちゃ)の語源を説明したことになる。ちなみに、蚊帳(かちゃ)と蚊(がぢゃん)の発音が似ているのは偶然ではないと思う。
118:帳
:幕。
:幕(まく)。
※現代琉球語でも、幕(まく)。
119:席子
:むしろ。
:筵(もしる)。
※現代琉球語では、筵(むしる)。この時代には、母音の「お」と「う」が混乱していたのであろう。その証拠である。
120:靴
:靴。
:足(ぴしゃ)ん革(が)。
※現代琉球語では、しいて訳せば、足革(ふぃさがあ)。ただしこれは、足の皮と間違えられるおそれがある。
121:紙
:紙。
:紙(かみ)。
※現代琉球語では、紙(かび)。この時代にはきちんと紙(かみ)と発音していたようである。
122:匙
:杓子(しゃくし)。
:笥(けえ)。
※現代琉球語では、飯笥(みしげえ)、鍋笥(なびげえ)、など。汁笥(しるげえ)は、新造語である。笥(け)は万葉集にも登場する古い共通語である。
123:筯
:箸。
:箸(ぱし)。
※現代琉球語では、箸(はあし)。
124:篩
:篩(ふるい)。
:篩(ぷるい)。
※現代琉球語では、これに相当する語はないようである。あれば教えてください。
125:椀子
:椀
:椀(まかり)。
※現代琉球語では、椀(まかい)。
126:砂貼是
:皿
:揃(すい)り。
※現代琉球語では、揃(すり)い。
127:木貼是
:鉢。
:鉢(ぱち)。
※現代琉球語では、鉢(はあち)。
128:櫃子
:中国製の長持。
:櫃(かい)。
※現代琉球語では、櫃(けえ)。
129:刀子
:刀。
:刀(かたな)。
※現代琉球語でも、刀(かたな)。
130:鍋児
:鍋。
:鍋(なび)。
※現代琉球語では、鍋(なあび)。
131:箒
:箒(ほうき)。
:箒(ぱおき)。
※現代琉球語では、箒(ほおち)。
132:火盆
:火鉢。
:火鉢(ぴぱち)。
※現代琉球語では、火鉢(ふぃばち)。
133:衣服
:着物。
:衣(きぬ)。
※現代琉球語では、衣(ちん)。きちんと「衣(きぬ)」と言っていたのである。
134:袴児
:袴(はかま)。
:袴(ぱかま)。
※現代琉球語では、袴(はかま)。
135:裙児
:婦人のつける裳。
:掛裳(かまも)。
※現代琉球語では、下裳(かかん)であるが、見たことも聞いたことも使ったこともないだろう。
136:瓦
:瓦。
:瓦(かあら)。
※現代琉球語でも、瓦(かあら)。
137:車子
:車。
:車(くるま)。
※現代琉球語でも、車(くるま)。
138:卓子
:竹で作った卓(だい)。
:竹台(たきでえ)。
※現代琉球語では、竹台(だきでえ)。
139:炭
:炭。
:炭(すみ)。
※現代琉球語では、炭(しみ)。
140:柱
:柱。
:柱(ぱにゃ)。
※現代琉球語では、柱(はあや)。
141:身子
:体。
:胴(どう)。
※現代琉球語では、胴(どぅう)。
142:面
:顔。
:面(ちゅら)。
※現代琉球語では、面(ちら)。
143:眼
:目。
:目(みい)。
※現代琉球語でも、目(みい)。
144:鼻
:鼻。
:鼻(ぱな)。
※現代琉球語では、鼻(はな)。
145:口
:口。
:口(くち)。
※現代琉球語でも、口(くち)。
146:耳
:耳。
:耳(み)。
※現代琉球語では、耳(みみ)。目(みい)と耳(み)はちゃんと区別できたのであろうか。もしかすると、耳(みみ)の聞き間違いかもしれない。
147:頭
:頭。
:頭髪(からんじゅ)。
※現代琉球語では、頭髪(からじ)。
148:手
:手。
:手(てぃ)。
※現代琉球語では、手(てぃい)。
149:足
:足。
:足(ぴしゃ)。
※現代琉球語では、足(ふぃさ)。この時代から存在したのは驚きであるが、語源はわからない。
150:舌頭
:舌。
:舌(しちゃ)。
※現代琉球語でも、舌(しちゃ)。
151:手指頭
:指。
:指(いぉび)。
※現代琉球語では、指(いいび)。
152:頭髪
:頭髪。
:頭髪(かしら)。
※現代琉球語でも、頭髪(かしら)。
153:牙歯
:歯。
:歯(ぱ)。
※現代琉球語では、歯(はあ)。
154:花
:花。
:花(ぱな)。
※現代琉球語では、花(はな)。
155:緑
:青い。
:青(あお)さ。
※現代琉球語では、青(おお)さん。
156:黒
:黒い。
:黒(くる)さ。
※現代琉球語では、黒(くる)さん。
157:青
:淡い緑色。
:青色(たんちょん)。
※現代琉球語では、訳せない。これはもともと中国語のようである。
158:牛
:牛。
:牛(うし)。
※現代琉球語でも、牛(うし)。
159:馬
:馬。
:馬(うま)。
※現代琉球語では、馬(ぅんま)。
160:猪
:豚。
:豚(ぅわあ)。
※現代琉球語でも、豚(ぅわあ)であるが、昔の発音は若干違っていたかもしれない。
161:鶏
:鶏。
:鶏(とぅり)。
※現代琉球語では、鶏(とぅい)。
162:狗
:犬
:犬(いの)。
※「いぬ」と「いの」の発音が混乱しているのである。現代琉球語では、犬(いん)。
163:羊
:羊。
:羊(ぴちゅじゃ)。
※現代琉球語では、羊(ふぃちじ)。山羊と羊の区別がなかったようである。羊(ぴちゅじゃ)が、山羊(ふぃいじゃあ)と変化したようである。
164:老鼠
:ねずみ。
:上屋人(おやぴちゅ)。
※現代琉球語では、上(ぅうぇ)ん人(ちゅ)。どちらも「上に住んでいる人」という意味のようである。
165:蛇
:蛇。
:食(ぱ)む。
※現代琉球語では、食(は)ぶ。「食べる」、「食いつく」が語源のようである。
166:龍
:龍。
:龍(たちゅ)。
※現代琉球語では、龍(たち)。
167:象
:象。
:象(ちゃあ)。
※実際の発音は、象(ぢゃあ)だったのであろう。韓国語は、語頭が濁音になることはない。現代琉球語では、そのまま、象(ぞお)であろう。
168:獅
:獅子。
:獅子(しし)。
※現代琉球語では、獅子(しいし)。
169:虎
:虎。
:虎(とら)。
※現代琉球語では、虎(とぅら)。